積みは快楽だ 社会人編

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野心作か失敗作か、実験的で挑戦的でメタでアンチな唯一無二の怪作「虹の歯ブラシ」早坂吝

 

虹の歯ブラシ 上木らいち発散 (講談社文庫)

虹の歯ブラシ 上木らいち発散 (講談社文庫)

  • 作者:早坂 吝
  • 発売日: 2017/09/14
  • メディア: 文庫
 

 

内容

探偵上木らいちが遭遇する、虹の各色に対応した事件

感想

エロミスと言われるように特殊な手掛かりとそこから犯人を導くロジックも独特の良くできたミステリ短編集・・・だとでも思ったか!

ネタバレ有の解説は巻末の深水黎一郎に譲るとして、うーむ・・・

ミステリの連作短編集ではたいてい最後に連作ならではの仕掛けがあって、楽しみなのだが・・・これは一体何なんですかね

ミステリってのは最後一つに収束するのが美しいのであって、タイトル通り発散してどうするのよ。この作者ならきれいな解決で「良くできた短編集」でまとめることはできるんだけど・・・それじゃあ面白くないと思ってしまったか・・・

「あなたはミステリに何を期待して読みますか?」というのを問いかけられているような、実験的で挑戦的でメタでアンチな怪作。その試みが成功か失敗かは君が読んで確かめるんだ! え? 私? 私は失敗7割と思うが、次の作品を読んでみたいと思ったよ。

 

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www.tsumi-kai.com

 

 

なるほどとオチのつく、ある意味「侘び寂び」ミステリ短編集「夜の冒険」エドワード・D・ホック

 

夜の冒険 現代短篇の名手たち8
 

 

内容

ほぼ千の短編を書いたホックの自選ノンシリーズ短編集

レミング刑事最後の事件

引退を宣告された刑事が臨む最後の事件

くされ縁

慎重派軍人とヒャッハー系軍人、兵卒から将軍にまでなった二人のくされ縁

スペインの町で3週間

休暇をさびれた町でとることにしたが、どうも様子がおかしいような。

感想

きっちりオチがつく安心のミステリ短編集。

特徴としては事件→オチというシンプルな流れを重視していることと、全体的に、読者をだましてやろうという気があまり感じられないこと。そのため、悪く言えば大きなサプライズが無い、良く言えば安心して読める。

オチを読んでの感想は「やられた、騙された、驚いた」ではなく、「なるほど、こう落としてくるか」みたくしみじみ感じいる感じ。バレバレのオチもあるが、良くいえば納得のオチなわけで不満は無い。ある意味「侘び寂び」ミステリ短編といえると思う。

 

いまいちすっきりしなくて残念「幽霊が多すぎる」ポール・ギャリコ

 

幽霊が多すぎる (創元推理文庫)

幽霊が多すぎる (創元推理文庫)

 

 

内容

心霊現象が続く屋敷に心霊探偵が調査に訪れる

感想

「他ジャンルの作家が書いた、唯一のミステリ!」そういう売り文句に私は弱いのだ、が、これはいまいち。

うーむ・・・題名通り多すぎる心霊現象を探偵が解決するミステリなわけだけど、どうもすっきりしない。「探偵の解決」というより、「手品のネタばらし」のがっかり感がある。道中も、事件→解決が一直線にならずふらふらしてるのと、登場人物も多すぎるせいでごちゃごちゃ。探偵の名探偵力?も低く暗中模索で、もどかしい苛立ち感は登場人物達と共有できますが・・・。

挑戦的な意欲作に驚愕と困惑「〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件」早坂吝

 

○○○○○○○○殺人事件 (講談社文庫)

○○○○○○○○殺人事件 (講談社文庫)

 

 

内容

孤島で起こる殺人事件。一体この殺人事件の「タイトル」は?

感想

「タイトル当て小説」って何? と思うが、事件そのものが超難易度高いからせめてタイトルだけでも当ててごらん、という作者のありがたい配慮です。読み終わってみると確かにこのタイトルだと分かる。

最初に上記の説明聞いたときは「うわ、つまんなそー」と思いましたが、違います。ある「仕掛け」と絡んでくるのです。

その「仕掛け」が前代未聞、かつ丁寧に小さな違和感を積み上げての真相解明カタルシス・・・なんだけど若干の人を食ったようなバカさ・・・いや、バカミスではないですよ、完全に驚いたし驚いたら負けですよね。

ちょくちょく作者がメタ的に登場して読者をあおってくるんですが、作品に対する自信の表れですね。ミステリにおいては作者のドヤ顔は欠点ではないですし。

まさに「メフィスト賞」でございます。良い意味で性格が悪い作者に翻弄されたい方はどうぞ。

 

嘘つきは不動産屋のはじまり?「正直不動産」大谷アキラ, 夏原武史, 水野光博

 

 内容

バリバリやり手の不動産営業マンが、ある日突然嘘がつけない正直体質になってしまう。不動産お仕事漫画。

感想

以下のめちゃコミのサンプル画像にひかれて読みました。いい笑顔だ・・・。正直おもしろい。

よくある業界知識系漫画で、正直者になった主人公の本音が身も蓋も無くて為になって面白いし、それだけじゃない。

正直者になりました顧客は満足してめでたしめでたし・・・とはなりません。基本的には不動産の「借り手」の一般人が不動産の裏側を知って損を免れます。が、「売り手(貸し手)」「買い手(借り手)」「不動産屋」の三者がいるので、誰かが得をすれば誰かが損をする。「お前は誰の味方なんだ」とは作中で再三言われます。

ビジネスマンあるある「慈善事業じゃねえんだぞ」「お前の給料どこから出てると思ってんだ」

実際、明らかな騙しは少なくて、大半は聞かれないデメリットを言わない、とかのグレーゾーン。見て見ぬふりが一番安穏。ところが薄いグレーゾーンでも主人公は空気読まず吹っ飛ばすわけで・・・そこが爽快感、ただ当然トラブル。

後味悪い漫画では全然無いですが、三方良しの解決は漫画でも難しい。でも最善を目指したって良いじゃないかビジネスマン。本音と建前、理想と現実、顧客の利益と自社の利益、努力と休息、板挟みの中たまには正直者も良いのかもねえ。

ややこしい不動産ルールを分かりやすく、文字が多いのに読みやすく、展開も緩急ついて面白くと、単純に漫画力が高いのも良い。巻が進むにつれキャラの背景が掘り下げられていくのもうれしい。きちんと面白くてしっかり為になる漫画です。

というか不動産業界 is 闇。あー良かった地主じゃなくて。あー良かった一軒家を買うお金が無くて。(正直な感想)

 

奇遇だな私もカーが好きなんだ「第四の扉」ポール・アルテ

 

第四の扉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

第四の扉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 

内容

交霊会で密室殺人! 「フランスのディクスン・カー」が書く長編ミステリ

感想

不可能状況で起こる殺人また殺人、謎また謎、最後の最後の気の利いたしかけ。いやいや確かになかなかやるじゃないですか。

ミステリファンおなじみのパーツで構成されてるのは良くも悪くもあるんですが、全部の謎解き無理なんじゃない? と思ったとこから全部解くのはお見事。

この本を要約すると、「お前ら交霊会で密室とか好きだろ? 俺はカーが大好きなんだ」という話ですよ。そう聞かれたら「実は私も」ってなって見つめ合って照れ笑いという読書体験、同人誌か!

いや実際かなり二次創作的ではあるんですが・・・フランスにはカーが全然売ってなくて、供給が無いなら自分で書く、というか登場人物も使っちゃおうとする・・・同人誌か!

無理に文句を言うとしたら、若干地味かな・・・もっと不可能性を派手派手しく飾ってもいいんですよ。

というか師匠のコピーを目指すなよ、師匠を超えるのが「恩返し」だぞ、とフランスまでエールを送りたい(謎目線)

あと文庫版の解説が麻耶雄嵩でちょっとレア、そして名解説なので書店で解説を立ち読みしてそのままレジに持っていくのがおすすめ。

さて次に何読むかだけど、本ミスベスト10見たら大体の本がランクインしてて参考にならねえわw

期待値高すぎ問題?「白銀の墟 玄の月」小野不由美

 

 

白銀の墟 玄の月 第一巻 十二国記 (新潮文庫)
 

 

内容

不死身の賢王が治める国を描いた異世界ファンタジー十二国記」の18年ぶりの新作長編

 

感想

十二国記」が超面白いのは今さら語りませんが、続刊が途絶えて久しく、もう新刊は出ないと諦めたところに、ついに出ましたよ新刊が。全4巻。しかもシリーズ中さんざんひっぱった戴国の話。

序盤~中盤はとにかく陰鬱、味方もいないし、状況も五里霧中、「屍鬼」の序盤みたい。さーそこからの大逆転のカタルシスが~あ、あれ普通に終わったぞ・・・

こ、これは・・・うーん・・・期待値が高すぎたからか?・・・いやそれ以前の問題では・・・重厚ではなく冗長なのでは?・・・いや冗長でもいいけど、そもそもこのシリーズは物語に筋が一本きっちりと

「おらおら何ぼーっとしてるんだ、新刊を待つ作業に戻りやがれ」

私は本をそっと閉じて、新刊待ちの列に並びなおした。いつかシリーズが完結することを夢見ながら・・・