積みは快楽だ 社会人編

読書その他の雑記

【感想】特殊設定ミステリのお手本「屍人荘の殺人」今村昌弘

 

屍人荘の殺人 (創元推理文庫)

屍人荘の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者:今村 昌弘
  • 発売日: 2019/09/11
  • メディア: 文庫
 

 

内容

大学のミステリ愛好会の探偵とワトソンは脅迫状の届いた映像研の合宿に参加するが、そこで殺人事件に遭遇する。衝撃の特殊設定のクローズドサークルミステリ。

 

感想

久しぶりの読書&更新ということで、超話題作をいまさら読みました。傑作。

本作は聞いてびっくりのかつてない舞台設定が目を引きますが、出オチにならない地に足のついた本格ミステリ。とにかく特殊設定ミステリというのは薄い一発ネタを警戒してしまいますが大丈夫、安心の謎解きミステリですよ。

定期的に手掛かりと謎が提供され説明も明確なので、読んでいて飽きがこないし、謎解きを考えずにはいられない。それでいて解決は意表を突きながらもしっかりロジカル。むー、うまい。

さらなる加点要素は細かい伏線と、仮説の提示と否定、気が利いてる。減点要素は全く無いですね。え、ヒロイン?の造形? 「白ワンピースに麦わら帽子」「はわっ」「ちゅーしてあげます」お、おう。

最近推理小説読んでないなー、という私にすっぽりはまりました。また色々ミステリを読んでいこうと思える作品です。次回作の 魔眼の匣の殺人 屍人荘の殺人シリーズ もそのうち読みます。

あとこのブログの更新も再開します、気長にぼちぼちと。

【感想】古き良きSFの無邪気さとバラエティ「無常の月」ラリイ・ニーブン

 

内容

帝国の遺物 中性子星 太陽星系近傍

「ノウン・スペース」シリーズの短編。宇宙を舞台に起きる事件を追う。シリーズの巨大な世界が背景にうかがえるのが楽しい。奇妙な異星人、変な星、謎な事件

無常の月

ある夜、空を見上げると月が異様に明るくなっていて・・・ 映画化決定の表題作

馬を生け捕れ!

未来人がタイムマシンで大昔に絶滅した「馬」を捕まえに行く話。おーそうきたかー。ドタバタ感とオチが楽しい

感想

バラエティ豊かな内容と想像力の短編集。非常に少ないページで異世界に引き込む技量はすごい。解説には「おもちゃ箱」とあるがまさにそんな感じ。

不満というか贅沢を言えば、ザ・ベスト・オブなのに大傑作が無いなあ。微妙な物足りなさは悪い意味でも「おもちゃ箱」的だからか。

映画化らしい表題作は映像映えしそうだけど、どうにも短すぎるショートストーリーだからどう料理するんですかね。パニックアクションムービーになったら悲しいな・・・

【感想】主婦&体育教師 vs 特殊部隊「ガンルージュ」月村了衛

 

ガンルージュ (文春文庫)

ガンルージュ (文春文庫)

 

内容

韓国の要人が特殊部隊に誘拐されるが、目撃者の少年少女が一緒に連れ去られてしまう。警察は頼りにならない。元公安の主婦と体育教師の女二人が、韓国最強特殊部隊を相手に追跡を開始する。

「あんた、一人でその連中を追っかける気?」

「息子の命がかかってますから」

「それで、手は足りてるのかよ、お母さん」

「足りてませんけど、足手まといは結構ですので」

「つまり、あたしにも来いってことっすか」

「言ってませんよそんなこと」

感想

あらすじでワクワクするだろ。もうそれで良いんだよ。

実際「機龍警察」他の作品で筆力十分の実力派作家なので、決してあらすじの期待を裏切ることなく安心して読める。

女二人のバディものなんですが、元公安のプロがシリアス担当、黙々と敵を射殺して武器を奪っていくのに対して、勢い担当の素人の体育教師の武器はバット!

ともかく敵が銃を放棄する余裕もないほど徹底的にボコる。そもそもバットと銃で殴り合ったらバットのほうが有利にきまっている。

お、おう。そうだな。

敵の反応も好き。「敵は女二人?」「『二重奏』が突破された」「なぜ追跡がこんなに早い、しかもたった二人で」

舞台裏で奔走する警察もかっこいい。

とにかく頭をからっぽにしてアクションシーンにひゃっほーと楽しもう。キャラクターが魅力的なので続編希望です。

余談

解説で触れられている美晴のモデルは新宿鮫の登場人物らしいです。私は未読。

【感想】前半ワクワク、結末残念「災厄の紳士」ディヴァイン

 

災厄の紳士 (創元推理文庫)

災厄の紳士 (創元推理文庫)

 

 

内容

前半はジゴロ視点での軽妙な倒叙サスペンス。「計画」のために金持ちの娘を落とすぞー
後半、死体が出てからは推理ものに変更 フー&ホワイダニット

感想

あらすじは面白そうで各ランキングも高いから読んだけど、んー、前半は楽しかったけど後半ひどい。結末で明かされる犯人と動機が全然納得感も驚きも無いのが痛い。
解説でパズラーって書いてるけど、ピースはまってなくないすかこれ。ご都合主義的に登場人物が駒のように動いてるのにプロットが破綻してるし、伏線はとってつけたようだし、残念残念。

初ディバインだけど、もう読むことはないな

【感想】ラテンアメリカの実力ってこんなもんなんすか?「20世紀ラテンアメリカ短篇選」野谷文昭編訳

 

内容

下記4カテゴリでまとめられた中南米の16短編

 I 多民族・多人種的状況/被征服・植民地の記憶

 II 暴力的風土・自然/マチスモ・フェミニズム/犯罪・殺人

 III 都市・疎外感/性・恐怖の結末

 IV 夢・妄想・語り/SF・幻想

感想

つまんなかった。ちょっと本書は期待値高かっただけにダメージでかい。

ラテンアメリカってあんまり読んでないんで入門にちょうどよさそうだし、きっと私の貧困な想像力の惰性の読書を吹き飛ばしてくれるような強烈な体験が・・・無かったなあ。というかこのテーマでアンソロ組んでつまらないってことありえんの? まじで? どの短編もあまりにも小粒すぎませんか。なんでガルシア・マルケスで地中海の短編選んでんの?

半分まで読んで投げようかと思ったけど、頑張って最後まで読んだけど、これだという短編に出会えず。いや、各短篇が駄作かというと決してそんなことは無いけど集めると脇役しかいないような。

一応積読には

ラテンアメリカの文学 ラテンアメリカ五人集 (集英社文庫)

ラテンアメリカ怪談集 (河出文庫)

悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)

とか積んでるんだけど、ちょっと時間を置こう。

【感想】歴史の流れの端でミステリ短編「方壺園」陳舜臣

 

方壷園 (ちくま文庫)

方壷園 (ちくま文庫)

 

内容

方壺園

唐の時代、四方を高い壁に囲まれた「方壺園」(上の書影の建物)の詩人をめぐった密室殺人事件。役人が不可能犯罪を「仏罰」で片づけようとするのは笑った。

九雷渓

1934年の中国、政府につかまり余命いくばくもない詩人の革命家に会いに行く

梨の花

現代の日本、被害者は密室の中で突然殺されかけるが生存。ただし犯人の顔も密室の謎も皆目わからない。面白トリック思いついちゃいました系で本書では異色。

獣心図

インドムガル朝が舞台の犯人あて小説。作者曰く「史実八割、フィクション二割」。完全正解者無しは悪い意味で仕方ないかなあ。

紅蓮亭の狂女

明治時代、日本人が中国情報を探りに清の皇族に会いに行くが、思いがけぬ目に遭う。状況の異様さのわりにトリックが平凡でちょっとちぐはぐ

感想

まーた日下三蔵編を買ってしまった。

陳舜臣歴史小説家だと思ってたら、なんだ君もミステリ好きなんじゃんみたいな仲間意識が芽生えました。

短編ごとに様々な時代を書いてますが、多いのは近代中国で日本人が事件にまきこまれるというもの。

 「日本と中国の危うい関係」

 「漢詩の詩情」

 「事実と創作の混在」

 「そもそも筆力が高い」

等で没入感は高いんだけど、ミステリ部分で現実に引き戻されるのは良いのか悪いのか・・・

本書は帯で「本格ミステリ」「瞠目のトリック」とかすごい煽ってるけど、そこ推しなんだ・・・いや、ミステリ読みに読んでほしいというのはわかりますけども。

 

【感想】どうしてこうなった状況が楽しいユーモアクライムノベル 「泥棒が1ダース」ドナルド・E・ウェストレイク

 

 

「ジョン、お前は泥棒なんだぞ」「今回は違うぞ!」

内容

愚かな質問には

泥棒が泥棒のコンサルタントを頼まれる。誰が誰を出し抜いたのか、まさに泥棒のプロの鮮やかなお手並み。

悪党どもが多すぎる

泥棒が銀行の金庫室までトンネルを掘ったら、そこには銀行強盗の人質が! どうしてこうなった。

真夏の日の夢

無実の泥棒が泥棒扱いされる話。いや泥棒だけど泥棒してないんすよ冤罪なんすよ。

芸術的な窃盗

泥棒仲間が画家に転職。話題作りのために自分の絵を盗んでほしいと頼まれる。

感想

泥棒のプロ、ドートマンダーさんが悪戦苦闘する短編集。有能なのにやたら不幸な状況におかれて笑ってしまう。それでも大抵はきっちり儲けをだしているのはかっこいい。軽快でユーモラスだし人は死なないし笑顔で読めるクライムノベル、楽しい。

ウェストレイクは初めて読みましたが、ドートマンダーさんは長編もたくさん出てるみたい。新刊で入手可は少ないけど、探して読もう。