積みは快楽だ 社会人編

読書その他の雑記

【感想】理由の分かる恐怖 「などらきの首」 澤村伊智

などらきの首 (角川ホラー文庫)

などらきの首 (角川ホラー文庫)

 

内容

学校は死の匂い

雨の日に体育館で飛び降り自殺をする白い人影のうわさを確かめる。

悲鳴

映画サークルの大学生が殺人事件のうわさのある場所で映画をとることに。その後次々と奇怪な事件が発生する。

などらきの首

首を失った化け物が首を捜しているという言い伝えのある村で、少年のころ首が封じられているという洞窟に忍び込んだ恐怖の記憶が蘇るが・・・

感想

理由が分かるのに、理由が分かるから怖い。そういう恐怖を扱った作品が多い。ミステリの手法を使って書かれていて、「推理」が披露され一応の解釈を得られる。ただし全く事件の解決にならないのが、ミステリ読みには嬉しい悲鳴です。中でも表題作の推理と解決は良い。

ミステリとホラーに二股かけてる人におすすめ。

短編なのでどれもテンポ良く進みテンポ良く人が死ぬのも楽しい。おっここで死んじゃうかーうふふ、って感じ。

 ただ、「ぼぎわん」や「ずうのめ」といった長編とくらべると少しパンチが弱いかな。(あいつらバケモノ級のバケモノが異常なだけではあるが)

 

 

 

【感想】完成度の高いお騒がせ系サスペンスミステリ 「殺す風」マーガレット・ミラー

殺す風 (創元推理文庫)

殺す風 (創元推理文庫)

「たしか曲がり角はこのへんだったはずだがな」
曲がり角は何ヶ月も前に過ぎてしまったのだ、とチュリーは思った。

感想

死体が出る前の開始50ページですでに面白い。人間関係は大爆発寸前なのにユーモラス。ミラーってこんな小粋な感じだったっけ。結局人間関係爆弾でひとり死亡。でも事態は深刻なのに「お騒がせ」感が強い。巻き込まれた人たちは本当にお疲れ様です。
最後には事件の「真相」が明らかになり、ある意味予定調和のサプライズですが、予想はしてたが信じられない。そのラストが悲しい上に読み返しても一体どこからどこまでが真実か嘘なのか判然としなくてぞくぞくします。
ギスギスしすぎないサスペンスミステリで完成度が高いものをお探しのかたにはぜひおすすめ。

【感想】ワクワクドキドキテクノロジーSF 「オービタル・クラウド」 藤井太洋

 

内容

舞台は2020年の近未来SF。世界初の民間人宇宙旅行ISS行き)を間近に控えた地球。だがテロリストの魔の手が迫って宇宙ヤバイ。その兆候にいち早く気づいたのは一人の民間人だった。

感想

いやー途中から面白くて一気読みですね。

まず技術の話が面白いですよね。ひとつのアイデアをどう実現させて、それでどう問題が起こるかってのが実にテクノロジーSFで良い。敵も味方も基本的にDIYなのが今と地続きな未来って感じだ。なのにテロのスケールはでかくて、それを防ぐ手段もでかい。

技術用語と視点変更の多さで目眩がしそうだが、それが逆に近未来の歴史的事件に立ち会ってるようなスリリングさにつながってる気がする。技術の話を中心に据えながら、物語としての面白さも失わないのは凄い。

登場人物はみんな有能、これ大事。なかでも敵が良いですね。世を憎んだスーパーエンジニアテロリストマン。一人で世界を敵に回して戦う自信と能力、壮大な目的。(あと、無能な組織と上司に嫌気がさして失職した過去)

ただ、帯に「火星の人」の次はこれ! って書いてあったけどそれはどうかなあ・・・。火星の人(映画オデッセイ原作)は万人におすすめできるけど、これは結構技術よりなんで大丈夫かな、なので俺はgeekだって人には超おすすめ

藤井太洋ははじめてでしたが、他の作品も追ってみようっと。

【感想】えっちょっとそこで終わるのやめて怖い「奥の部屋」エイクマン

内容

学友

旧友の様子がどうもおかしい。どうやら住んでいる屋敷に原因があるようで様子を見に行くことに・・・

何と冷たい小さな君の手よ

昔の彼女に電話したら見知らぬ女が出た。電話越しでしかない相手にだんだんと魅かれていって・・・

奥の部屋

少女が誕生日に大きく精密にできた人形の家をもらう。それから何度も悪夢を見る。どうやら人形の家には隠された奥の部屋があるようだった。その後父親が売り払ってしまい、大人になって人形の家のことはすっかり忘れていたが、ある日・・・

感想

前ふりの平常な世界の描写がうまくてスッと作品に入りこめてしまう。そして何かに段々浸食されてきて、飲み込まれかけたところで唐突に終わる。曖昧だが強い恐怖感が残る。
視点人物が冷静に浸食されるのもヤバいし、大抵生存してるのも逆に嫌な感触だ。死んでくれたほうが、かえって怖くないのにな。 
帯にホラーって書いてあって良かった ホラーという枠組みに押し込んで封じてしまってようやく安心できる

【感想】「短編小説」の短編集 「郵便局と蛇」コッパード

 

郵便局と蛇: A・E・コッパード短篇集 (ちくま文庫)

郵便局と蛇: A・E・コッパード短篇集 (ちくま文庫)

 

 うすのろサイモン

「うすのろ」が天国を探す話。おとぎ話調で語られてのに急にエレベーターという単語が出て驚いていたら本当にエレベーターで天国に行ってしまいさらに驚く。

若く美しい柳

ある日、孤独な柳の隣に電信柱が立てられて二人(二本?)は徐々に惹かれあっていく。

リー・モーガン

そう、幽霊などいないと思う。そんなものは現実に存在しない。けれどただひとつの例だけは別であるとわたしは知っている。ただひとつの幸福で、美しい幻。

妄想と片付ける解釈もできる、悲しく美しい幽霊恋愛譚。幽霊物のアンソロに是非入れたい。

幼子は迷いけり

何をするにも興味も持てない無趣味の子供が段々と成長していって・・・ああやめてーそういう悪い意味で心にくるのはやめてくれ

 全体の感想

正直半分くらいの短編が「???」でしたが、割と楽しめました。「???」なのは寓話なのか幻想なのか宗教物なのかなんなのか取り扱いに困る感じですね。強いて言えば「短編小説」としかくくりようが無いかなあ。

「郵便局と蛇」は妖怪っぽくて面白くはあるのだけれど何故これが表題作なのかさっぱり分からない。西崎憲編は他に

短篇小説日和―英国異色傑作選 (ちくま文庫)

怪奇小説日和: 黄金時代傑作選 (ちくま文庫 に 13-2)

を読んだけど両者にもやっぱり「分かる」短編と「分からない」短編があるんですよね。小説の意味もそれを選んだ意味もわからないやつが。悪い意味ではなくそんな短編をためつすがめつするのも短編集の楽しみの一つなので、まあ首をひねりつつゆっくり味わいましょうかという感じですかね。

 

【感想】軽妙なミステリ短編集(やや小粒)「二壜の調味料」 ダンセイニ

 

二壜の調味料 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

二壜の調味料 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

二壜の調味料ほか、スメザーズシリーズ

有名な表題作は見せ方が実に上手い。ワトソン役のスメザーズさん好き。よくある名探偵とワトソン物なのだけれど、ワトソン役の語り口が独特で、名探偵に対する素直な尊敬と好意が暖かくて楽しい。なにしろ原題はスメザーズの物語で、ワトソン役がタイトルになっているほど。表題作以外はネタが小粒だけど語り口のおかげで十分楽しめる。

その他の短編

「新しい名人」

チェスを指す機械が完全に将棋の電王戦の電王手くんだなあ、ただしこっちは礼儀正しくないけど。1952年か、われはロボットが1950、メルツェルの機械が18世紀だから意外とリアリティはあるのか。

「演説」

議会での演説を絶対に阻止するという犯人の予告に対し完全警戒でのぞむ警察。完全に予想外(知識外)のオチで面白い。

「ネザビー・ガーデンズの殺人」

殺人犯から屋敷の中で逃げ回る。お互いの機転が面白い。

アテーナーの楯」

行方不明の女性のリアルな石像が発見されるが・・・。不真面目な変化球。こんなのがもっとあれば良かったなあ。

感想

奇妙な味を期待して読んだら意外とほとんどミステリでした。表題作は白眉ですが全体的にはミステリのネタとしては小粒。陰惨にならず軽妙だからまあ良いのかなあ。あまりおすすめでは無いです。

著者の本領はファンタジーだそうなので、次は河出文庫の短編集を読んでみようと思ったけど訳がひどいのか(Amazonレビューより)。悩む。

【感想】SFミステリと呼ぶのはやめとけ 「鋼鉄都市」 アシモフ

 

鋼鉄都市

鋼鉄都市

 

内容

宇宙人の殺害事件を人間の刑事とロボットが捜査する

感想

まず描かれる世界が面白い。ランクで管理された巨大都市。目的不明で隔離された宇宙人区画。そしてロボットと人間の反発。その中で起こる宇宙人の殺害。と、道具立てはあまりにも完璧。今読んでも古びることは無く読んでいて楽しい。

主人公はロボット嫌いの刑事で、パートナーはロボット。この相性の悪い2人が殺人事件の調査をする中で、だんだんとお互いを信頼するようになっていく。結局最後まで主人公はロボット嫌いだしロボットは感情が無いままだったけど、そこには確かに友情のようなものがあって、胸が熱くなります。バディものとして素晴らしい。

SFミステリだってさ

で、傑作なのは良いとしてだ。SFミステリという件についてはちょっと待て。トリックがあまりにもしょぼすぎる。これだけの世界観と物語を支えるには細すぎてぽっきり折れてる。トリックが無いほうがましとは言えないが・・・ないほうがましかな。

誰だよSFミステリだなんて言ったのは、え、作者なの?(はだかの太陽 序文より)なんでこのトリックで自信満々なんだ・・・

ミステリ読みに薦めるときはSFミステリと言わないほうが賢明。それよりは「われはロボット」を薦めましょうお願いします。